ドラム親父のぼやき(23)

12月某日夜8時頃。

とても寒い夜だった。

残業をしていた私は、一息つこうと、自動販売機の前に立っていた。

普段ならノンカロリーのドリンクを選択するところだが、

この寒さと、空腹感を紛らわすために、

カロリーのありそうな『ホットレモン』を買うことにした。

ピッ! ガコッ!!

出てきたのは『おしるこ(つぶつぶ小豆入り)』だった…

お、おしるこ?…

『おしるこ』のスイッチは3つ右隣にあるから、押し間違えるはずは無い。

業者のミスであることは明白だ。

しかしまあいいだろう。私も、分別も寛容性もある大人だ。

今回は許してやる。まんざら『おしるこ』も嫌いじゃない。

しかし、次は無いぞ! 次はただじゃ済まさんからな!

つぶつぶ小豆を噛み潰しながら私は考えた。

『ホットレモン』のレーンに、たまたま一個だけ『おしるこ』が紛れ込んだのか、

『ホットレモン』と『おしるこ』が完全に入れ替わっているのか?

次回、『おしるこ』のスイッチを押してみればどちらのパターンかはっきりするだろう…

翌朝。

例の自動販売機の前に、飲料販売会社のトラックが止まっていた。

缶飲料の補充をしているようだ。声をかけようかと思ったが、

朝は忙しく、面倒だったのでやめた。

その夜。

私はその日もまた残業を行い、再び夜8時頃、例の自動販売機で『ホットレモン』を買うことにした。

はたして『ホットレモン』はどこにあるのだろう?

朝、補充をした時に担当作業員が気付いていれば、正規の位置に『ホットレモン』はあるだろう。

しかし気付いていなければ…。 『ホットレモン』、『おしるこ』 どちらのスイッチを押すべきか?

これは、担当作業員のスキルとモラルに全てがかかっている。

彼を信頼できるか?…

顔も知らない彼に、私の『一時の憩い』をゆだねられるのか?

私は悩んだ…

いや! 彼も私も同じ日本の労働者!

日本の労働者の勤労さ、勤勉さを信じなくてどうするのか!

しかも、今年は大企業のモラルを問われる事件が多数取りざたされて、

どの企業も、モラルやコンプライアンスの重要性をあらためて強く認識しているのではないだろうか?

かさねて、3月の大震災で、人の人との絆が、以前よりとても大切に深く感じられている今、

私が担当作業員を信じず、『おしるこ』のスイッチを押せるだろうか?

きっと担当作業員は、今朝即座に自分のミスに気付き、飲料を所定の場所に入れ替えただろう。

そして今晩は、自分の犯した過ちに苦悩し、後悔し、枕を涙で濡らしながら、眠れぬ夜を過ごしているに違いない!

そうか!わたったよ! 私は君を信じるよ!

きっと『ホットレモン』のスイッチを押せば『ホットレモン』が出てくるに違いない!

もう迷わないよ。どんな結果になろうと私はそれを受け入れよう!

私の頭の中にビートルズの『Let It Be』がながれだす。

(なすがままに、なすがままに…)

私は心の奥底から溢れ出す『勤労者魂』、『人類愛』、『互助の精神』、『ドリームモーニング娘。』等のさまざまな感動的な思いに指先を震わせながら『ホットレモン』のスイッチを押した。

ピッ!

ガコッ!!

『おしるこ(つぶつぶ小豆入り)』だった…

後日。

例の販売機にお詫びの張り紙があった。


ドラム親父のぼやき(23)” に対して1件のコメントがあります。

  1. なな より:

    おもしろかったw

  2. 森くん@T.Sax より:

    つぶつぶは残さず飲めましたか?w

  3. takumi@Dr より:

    一粒残さず噛み潰しました。

  4. としえ@sax より:

    相手を信じて失敗するよりも、

    相手を信じず失敗した方が、

    より後悔が残るだろう。

    by あまーず1号

  5. takumi@Dr より:

    あまーず1号!
    あなたの言葉は、小豆だらけの私の心に染み渡っていったよ。
    私はもう誰も恨んじゃいないさ!
    明日からはあなたの言葉を胸に刻み、
    しっかり前を向いて生きていけるよ!
    ありがとう。

  6. takumi@Dr より:

    ななさん、サンキュ!

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